unikki

Uni. + diary = Unikki

《ロ短調ミサ曲》の批判校訂の歴史

1856/7年(Br&H)J. Rietz「旧全集」
1954年(Bärenreiter)F. Smend「新全集」
1997年(Peters)Christoph Wolff
2005年(Bärenreiter)U. Wolff「新全集の補遺」
2006年(Br&H)Joshua Rifkin
2010年(Bärenreiter)U. Wolff「新全集(改訂版)」
2014年(Carus)U. Leisinger


 そうそうたる音楽学者の名前が並んでしまいました。これ,バッハ旧全集から続くh-mollミサの批判校訂版の校訂者の一覧です。見て頂くと分かるように,20世紀末から立て続けに5つのエディションが出版されています。


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 バッハの他の作品と同じように,長年にわたって演奏のスタンダードを決定してきたのは新全集(スメント校訂)だと思います。ですがこの版は,デュルやダーデルセンの年代学の恩恵に預かることがなかったため,現在ではずいぶんと間違いが多いものだと見なされています。ふつう規範となるべきである新全集が,そういう風に不完全であったので,20世紀末に「新しい批判校訂版」への要請が高まったのは当然の成り行きだったのだと思います。
 1997年に満を持して出版されたのが,クリストフ・ヴォルフ校訂のPeters版。この版では,スメントが犯した年代推定に関するミスの多くが訂正されました。ところがそれから10年も経たないうちに,リフキンが新しい版を出版しています。というのも,クリストフ・ヴォルフ版は校訂報告が詳細でなかったため,より学術的な校訂と校訂報告が求められたのです。リフキン版では,C.P.E.バッハによる書き込みが初めて詳細に論じられました(特にクレド)。このリフキン版の成果を反映しつつ,さらにX線調査といった科学的な研究の成果が反映されたのが,2010年に出版された「新全集の改訂版」というわけです。
 そして今年。ライジンガーが新たに批判校訂版を出版しました。


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 奇しくもカンタータクラブが,来年の定期演奏会クレドを演奏するそうです。Peters版に付録のC.P.E.バッハによるクレドへの導入も演奏するということで,おそらく1786年におけるC.P.E.バッハによる演奏(バッハ死後の部分初演)を意識したものになると思うのですが,そうすると必然的にクレド本体部分もC.P.E.バッハの書き込みを全面的に肯定するかたちでの演奏になるかと思います。リフキンによる校訂のように,あくまでJ.S.バッハ自身の書き込みのみを追求するような,一昔前に流行ったいわゆるオーセンティックな志向の演奏は多々あると思うのですが,今回カンタータクラブが試みようとしているような上演はまだ珍しいと言えるかもしれません。